さまざまな体験を通じた次世代育成
しんしんと小雪が舞う1月のある日。熊本県上益城郡山都町の犬飼公民館には、「混ぜるの楽しいね!」「早く食べたい!」と味噌づくりに取り組む子どもたちのにぎやかな声が響いていた。
活動主催しているのは、子どもたちに自然や食の大切さを伝えたいという女性グループ「山都のやまんまの会」。立ち上げメンバーである下田美鈴さんに、プロジェクトにかける思いを伺った。
この団体を立ち上げたきっかけを教えてください
地域の課題に取り組みながら、子どもたちに自然体験を
設立のきっかけは2011年。東日本大震災で、山都町には関東から若い人たちが40人ほど移住してきました。その移住者たちに「なぜ山都町に来たの?」と聞くと「安心、安全な農産物を手に入れることができるから」とか「有機農業がしたい」という声が多かったんです。外から見ると、この地には宝物があるんだと感じました。
その一方で、過疎や高齢化など、さまざまな課題を抱えているのもこの町の現実。移住者の女性たち、そして地元の女性が、それぞれの視点でこの町をよくするために何かできないかと考えた結果、翌2012年に、この「山都のやまんまの会」を立ち上げました。やまんまの“まんま”には、山都のよさをその“まんま”伝えたいという思いと、イタリア語のお母さん(=マンマ)という意味が込められています。
その一方で、過疎や高齢化など、さまざまな課題を抱えているのもこの町の現実。移住者の女性たち、そして地元の女性が、それぞれの視点でこの町をよくするために何かできないかと考えた結果、翌2012年に、この「山都のやまんまの会」を立ち上げました。やまんまの“まんま”には、山都のよさをその“まんま”伝えたいという思いと、イタリア語のお母さん(=マンマ)という意味が込められています。
具体的にはどのような活動をされていますか?
米づくりや自給自足体験で、生きる力をはぐくむ
私たちの住む山都町は、阿蘇南外輪山と九州山地に囲まれ、米、お茶、ゆずなどの豊かな農作物に恵まれています。私たちは、この豊かな自然環境を生かして、町内外の子どもたち向けの自然散策や食農体験、さらに地元食材を使った商品開発、マルシェの開催などを行っています。
食農体験では、田植えや稲刈り、そしてそのお米を使った餅つきや味噌づくりなどを行っています。活動で大切にしているのは、“感じる”こと。田んぼに入ったときのぬるっとした感触や、そこにいるアメンボやオタマジャクシ、カエルを見たり触ったりする実体験が、子どもたちの五感をはぐくむのに、とても大切なことだと思います。
活動を通じて、どんな手ごたえがありましたか?
熊本地震の直前に自給自足体験プログラム
昨年の春、地元の小学5,6年生を対象に、「自給自足体験」を行いました。この企画は、お米以外の材料をすべて自分たちで調達し、かまどでご飯を炊いて食べるという体験です。ご飯を炊くための薪の調達や火おこしのほか、お茶碗も竹で手作りしました。おかずは、その辺に生えている雑草です。雑草の中からノビルを摘んで、それをゆでて、酢味噌あえにしてみんなで食べたら、子どもたちは「おいしい!」と大喜び。それ以降、子どもたちが近所に生えているノビルを全部摘んでしまって、なくなっちゃったっていうエピソードもあるくらい(笑)。
実は、その企画が行われたのは、昨年2016年の4月10日のことでした。その時に「もし地震があって、電気やガスがつかなくなっても、君たちはご飯が炊けるんだよ!」と子どもたちに話してたんです。その直後に熊本地震が起こりました。地震でライフラインが止まっていた時に「電気釜や計量カップがなくても、子どもがちゃんとご飯を炊いてくれました」と保護者の方に喜ばれました。本やインターネットから知識を得ることはとても大切なことですが、体験して感じることはもっと大事。経験することで、生きる実力が身に付きます。
活動を通じて、子どもたちに何を伝えたいですか?
先人の知恵と豊かな自然に生かされていること
活動の根幹にあるのは、自然と食べ物、そして私たちはすべてつながっていることを実感してほしいという思いです。山都町には、橋の中を水が通る「通潤橋」という石橋があります。国の重要文化財に指定されているこの橋は、水が少ない白糸台地の人たちの声を受け、安政元(1854)年に建設されました。それ以来、今も通潤橋の水が白糸台地を潤し、その恩恵を受けて多くの人が農作物を作り、生計を立てています。その水をはぐくむのは、この地区の周りにある豊かな森。森に降った雨が、土壌に染み込む過程でゆっくりゆっくりミネラルを蓄え、そのおいしい水のおかげで農作物ができています。
森と水、そして私たちの食べ物はつながっていることを感じてほしいという思いから、子どもたちと森を散策する「森の学校」という企画も行っています。毎年、8月に行われるこの企画は、町内外から50人以上もの親子連れが参加する人気のイベント。このような体験を通じて、昔の人々の知恵と豊かな自然が実りをはぐくみ、そのおかげで私たちは生かされているんだ、すべてはつながっているんだ、ということを実感してほしいですね。
今後の活動予定を教えてください。
棚田の復興や拠点づくりで、町を元気に
山都町には、日本棚田百選にも選ばれた美しい棚田があるなど、産業の中心となっているのは、やはりお米です。しかし、熊本地震の影響で、美しい棚田や水路が土砂災害に見舞われました。山都町の美しい風景と、地域の基幹産業である農業を守るために、九州大学や熊本大学、熊本県立大学の学生ボランティアさんに協力をお願いし、棚田復興支援を進めていこうと計画しています。
2017年春には、子どもたちの学習や体験も支援する地域の交流スペース「山都ふらっと」をオープンします。皆さんに“ふらっと”立ち寄ってもらい、さまざまな地域おこし活動をさらに進めていきたいと思っています。私たちのモットーである“ATM(明るく、ためになる、前向き)”を胸に、これからも女性パワーで積極的に活動していきたいと思います。
移住者とともに立ち上がった“やまんま”が拓くみらい
「少しおせっかいなのが、私たちの強みかな」と笑う「山都のやまんまの会」の皆さん。「山都町の魅力は?」の問いかけに、犯罪発生率が県内で極端に低く、子育て支援が充実していて住みやすいと声をそろえる。
「いろいろピンチだけど、ピンチはチャンス。ATM(明るく、ためになる、前向き)で頑張ります!」と、移住者の多様なスキルと在住者の郷土愛で、困難に立ち向かう女性たちが見つめる山都町の新しい“みらい”から、目が離せない。
団体プロフィール
NPO法人 山都のやまんまの会
熊本県上益城郡山都町在住の20代から70代の女性たちが、食育イベントや自然散策、さらに地元食材を使った商品開発などを通し、子どもたちの生きる力を育て、地域への愛着を深めるために活動。
2017年春には、子どもたちの学習・体験も支援する地域の交流拠点としてレンタルスペース「山都ふらっと」をオープン予定。
山都で住民と移住者がともに歩む地域モデルは今後他の自治体でも参考になる気がしました。先駆けとしてこれからも魅力的な企画に取り組んでください!応援しています。
この活動を通して子ども達が地域への愛着を深め、次世代の地域リーダーに育ってくれると良いですね!応援しています。
食育、地域課題解決、災害時への備えなど、一つの活動から様々な効果に波及していくところが良かったです。
ピンチはチャンス!ですね!子どもたちの生きる力を育むのが日本のみらいを明るくすることにつながると思います!