さまざまな体験を通じた次世代育成
“里山のよさを子どもたちに伝えたい”。そんな思いを胸に、菊池市の里山で自然・文化体験活動「里モンわいわいプロジェクト」を主宰する横手眞知子さん。
かつて馬小屋兼納屋だった場所に、里山合宿で訪れた子どもたちの賑やかな笑い声に包まれながら、活動に対する想いを伺いました。
里モンわいわいプロジェクトとは、どのような活動ですか?
古民家を拠点に、楽しい里山体験を
私たちは、里山にたくさんの人にきてもらい、好きになってもらいたいという思いから、築100年の古民家と、納屋を改造した「横手庵なーや」という小さなホールを拠点に、子どもたちや海外の人向けの民泊や、音楽会、舞台鑑賞会などの活動を行っています。
ここには、昔ながらの田園風景や段々畑、秋になれば柿や栗がたわわに実る豊かな里山が残っています。このすばらしい環境で、山登りや川遊び、農業体験やコンサートなどを楽しんでもらうことで、のんびり癒やされて、里山の楽しさを実感してもらいたいという思いで始めました。夫婦二人で始めた取り組みですが、娘夫婦や賛同者の協力もあり、少しずつ活動の幅も広がっています。
このプロジェクトを始めたきっかけは?
子どもたちに伝えたい“里山は、ワクワクがいっぱい!”
私は、長野県の小さな田舎町で育ちました。子どもの頃は、近くの公民館にお芝居が来たり、広場に白幕が張られて映画の上映会があったりと、ワクワクするような小さなイベントがいっぱいあったんです。年の暮れには近所の人たちと集まって餅つきをしたことや、春になると近くの川で蛍を捕まえたことなど、今でも忘れられない大切な思い出です。
仕事を退職して自由な時間が増えた時、その頃のことを思い出して「うちで、お芝居を企画したり、子どもたちを呼んで合宿したりとかできないかな?」と、私が何気なく家族や友達に話したら「おもしろそう!やってみよう」という話になって(笑)。主人も私も学校の教員でしたが、私の退職を機に3年前にこのプロジェクトが始まりました。「里もんワイワイプロジェクト」というプロジェクト名は、私たちの姓と賑わい創出への願いを込めています。
立ち上げ当初は、計画をどのように実行してよいかもわからず、里山へ来てくれる人がいるのかなど、不安もありました。知り合いにチラシを配ったり、地域の方々やスタッフの協力を得ながら、活動を初めて1年が経過する頃には、徐々に活動の輪も広がってきました。
地域の方の反応はどうですか?
“若い人と出会えて楽しかった”の声を励みに
横手庵のある菊池市小平地区の大柿(おかき)集落は、お年寄りの一人暮らしの方が多く、若い人が少ない、いわゆる中山間地域。インターネットやSNSにはなじみのない高齢者が多いので、お芝居や音楽会をするときは、皆さんにチラシを配り、お誘いするんです。一人暮らしのおばあちゃんも足を運んでくださり、「久しぶりに笑いました」とか「若い人に会えて楽しかった」とか言ってくださって、こちらもうれしくなりますね。
今夜はこの子たちと、拍子木を打って「火の用心!」と言いながら、集落内を夜回りしようと思っているんです。この集落で育った主人は、子どもの頃にいつも夜回りをしていたそうで、それを復活しよう!ってことになって、拍子木を全部手作りしたんです(笑)。地域の人たちも、夜の大柿地区に子どもたちの高らかな声と、拍子木の音が響くのが懐かしくて、今夜を楽しみにしてくださっています。
子どもたちの反応はどうですか?
みんなで食べて、みんなで眠る。里山の楽しさに瞳がキラキラ!
今日は、南阿蘇村の中松小学校の5、6年生15人が泊まりに来てくれました。南阿蘇村といえば、地震の被害が大きかったところです。男の子たちが上手に餅をつくもんだから“餅つき上手だね”と声をかけたんですよ。そしたら“毎年、村で餅つきをするんだけど、今年は、地震があったから餅つきはしないんです。だから嬉しいです”と言ってくれて。
“ぼく9個食べました!”“きなこ餅が一番おいしかった!”とおいしそうに餅をほおばる子どもたちの笑顔に癒やされますね。緑に囲まれた山の中で、みんなでお餅をついて、みんなで丸めて、みんなで食べる。たったそれだけのことですが、子どもたちの瞳がキラキラしているのがわかります。
子どもたちが宿泊する母屋は、築100年の古民家をリフォームしています。黒光りする梁がむき出しになっていて“まっくろくろすけが出そう!”と、子どもたちは喜んでくれます。
活動を通じて子どもたちに伝えたいことは?
美しい里山を育むのは、“人の手”
森や草の香り、風の音を感じる里山で、崖を登ったり、川遊びをしたりして、里山のよさを体感して欲しいですね。そして、みんなで食卓を囲んだり、音楽に耳を傾けることで、地域の人と交流する場でありたいですね。
美しい里山は、人の手が入らなければ、荒れ果ててしまいます。裏山にある竹林や栗の木は、手入れするのがどんなに大変か、里山に縁のない子どもたちにはわからないと思うんです。竹の子を採るためには直ぐに大きく伸びてしまう竹を定期的に伐採しないといけないし、栗を拾うためには、腰まで生えた雑草も刈らなくちゃいけない。このような美しい里山を守るためには、人の力が必要なんだよということを伝えます。一方で、伐採した竹を使って、お箸を作ったり、流しそうめんをしたりと、自然の恵みとしての魅力も伝えています。
今は分からなくてもいい。子どもたちが大きくなったとき、楽しかった思い出とともに“里山って人が守ってるんだな” と思い出して、近くにある里山を身近に感じてもらえたらうれしいです。
里山と古民家で育む、豊かな田園地帯のみらい
「“里モンわいわいプロジェクトは、世界を救う”大げさだけどそう思うの」。そう言ってほほえむ横手さん。子どもたちや外国からの宿泊客と、食卓を囲んだり、おしゃべりをしたりする里山での時間に、人と人が仲良くなるのに、年齢も性別も、国籍も関係ないと感じるという。
この里山のように、豊かな自然の中で心を開いて笑い合える小さなオアシスが世界中に生まれると、本当に戦争もなくなるのかもしれない。昔ながらの里山は、私たちのみらいに新しい宝物をプレゼントしてくれている。
団体プロフィール
里モンわいわいプロジェクト
築100年の古民家と、納屋を改造したホールを拠点に2013年から活動。熊本地震の被災地の子どもたちなどを対象に里山民泊を行うほか、お芝居公演や音楽会、栗拾い体験、海外の人向けの民泊などの活動を行い、人々の交流の場とすることで、中山間地域の活性化を図っている。
横手さん夫妻や娘さんご夫婦は、皆さん教員という先生一家が中心となって活動されている、アットホームな団体。
体験を通して田舎の魅力を発信されている取組みに強く共感しました。これかも活動が活発に継続されることを祈念しています。
日本に残された美しい田園風景や伝統的な建物を知らないまま大人になることが多い昨今、都会では感じることができない自然の豊かさを、里山を歩き、森や草の香りをかいで、自然に触れることのできる、とても素晴らしいプロジェクトだと思いました!
田舎の風景は、勝手に出来たものではなくて、守ってきた皆さんの努力の賜物だと思いますo(^-^)o
皆さんの活動を応援しています(^-^)v
私の身近なところでは小学校の廃校が続き、淋しい思いをしました。荒れ果てた田畑や手入れできなくなった果樹園などを見るたびに勿体無いと感じてしまいます。田舎に若者が戻り、子どもの声が響くようになることを願っています。