郷土教育を通じた次世代育成
鹿児島県奄美地方の方言「島口」を取り入れたミュージカル「結-MUSUBI-」を演じるのは、徳之島に住む現役の中高生39名。活動を通じて成長していく子どもたちに負けられないと、サポート役の大人たちも奮起し、2017年3月に3回目の公演が開催された。
「結シアター手舞」の事務局・峰岡あかねさんと、保護者代表で同団体の会長を務める前田美香登さんに活動のきっかけや想いを伺いました。
島口ミュージカルを始めたきっかけは何ですか?
聞き取れない、話せない世代が増え、島口は消滅の危機にある
ミュージカルを始めたきっかけは、2015年に鹿児島県で開催された「国民文化祭かごしま2015」です。天城町では島口をテーマに事業を行うことになっていたことから、青年団を中心とした実行委員会で検討した結果、これまであまり活躍の場がなかった島の中高校生に島口でミュージカルを演じてもらうことになりました。その後、沖縄県うるま市で行われている中高生ミュージカル「肝高の阿麻和利」を見学し、そこで青年団が演舞を習ってきて、島の高校生に教えたのがはじまりでした。
奄美地方の方言である島口は本当に難しく、ユネスコの消滅危機言語にも指定されるほど。私は何となく聞き取れますが、20代以下になると聞き取ることも話すことも難しいでしょう。しかも、町や地区ごとに少しずつ言葉やイントネーションが違うんですよ。ですからミュージカルでもすべてのセリフが島口ではなく、ストーリーの中心部分は観客に分かりやすいよう標準語をベースとしながら、所々に島口を入れて、雰囲気を出したり、笑いを誘ったりと工夫しています。
子どもたちはどう変わりましたか?
普段は大人しい子も、舞台の上では感情があふれる演技を
現在のメンバーは、中学1年生から高校3年生までの39名。子どもたちの中には、不登校などの問題を抱えている子もいましたが、練習を通じてどんどん成長しています。普段は思春期真っ只中で反抗期の子どもたちも、舞台の上では全くの別人。学校も学年も異なる中でコミュニケーションしながら、普段の学校生活ではできないことを仲間たちと体験していくことで、表情が明るくなったり、挨拶ができるようになったりと変化が出てきました。
部活をしながら参加しているメンバーも多いのですが、平日は週に3回。部活が終わる頃の18時半から21時くらいまで、みんなで練習しています。さらに練習の合間には地区のイベントなどに年間50回ほど出演し、短縮バージョンのミュージカルやダンスを披露してきました。これだけ、学生生活の中にミュージカルが色濃く入っていることもあってか、ミュージカルを通じて交流している沖縄の大学に進学する子や、高校卒業後も島に残ってミュージカルに携わりたいと言ってくれる子も出てきました。今回の公演でも、島外に出ていたOBやOGたちが、公演のためだけに駆けつけ、いろいろなサポートをしてくれています。
子どもたちを見て地域の方々の反応は?
驚き、感動し、そして応援してくれるように
私も初舞台を観たとき、本当に驚き、感動しました。公演を実際に観るまでは、部活の発表会程度かなと思っていたので、想像をはるかに超えていました。あれを見せられたら、保護者も頑張らない訳にはいきません。練習時に食事を準備してあげたり、小道具を作ったりと、保護者会を結成して全面的にサポートをするようになりました。大変ですが、子どもたちの演技を見るたびに、感動や元気をもらっています。
地域の方々からのサポートも充実していっています。ミュージカルを始めたきっかけとなった青年団は、普段の練習では指導者でもあり、公演時には駐車場の整備からチケットの販売、舞台に登場する闘牛役まで、さまざまなサポートをしてくれています。かなり負担をかけていますが、ある意味、ミュージカルが青年団の起爆剤にもなっているのではないでしょうか。そのほかにも、保護者でもある大工さんと地域の若い大工さんが一緒になって舞台の平台をボランティアで作ってくれたり、学校の先生が活動を評価してくれたりと、地域の方も何かと助けてくださるようになりました。きっと、あの演技や頑張りを見てくれたからこそ、地域の皆さんの心も動かされているのだと思います。
これまでミュージカルを公演してきた中での課題は?
資金面での不安は大きいが、子どもたちの成長はお金にはかえられない
もともと行政主導で始まった事業でしたが、子どもたちから「このまま終わらせたくない」という強い希望もあり、自主財源での公演を続けることにしました。演劇には道具や照明、音響など、資金面の負担が大きいもの。正直なところ、お金をかけることの意味や、赤字が出た場合のことを悩んだ時期もありました。それでも「とにかくチケットを売るしかない」と資金集めに奔走する毎日でした。時には中高生メンバーも一緒になってジャガイモ掘りのアルバイトをして資金の足しにしたことも。「なんでこんな大変なことを始めたんだろう」と恨めしく思ったこともありましたが、子どもたちの成長を目のあたりにすると、お金にはかえられません。
このミュージカルを通して子どもたちは、島には「自分たちに一生懸命協力してくれる人がいる」という安心感や島の魅力を、きっと感じてくれていると思います。高校卒業後に9割の子どもたちは島を出ていく徳之島。しかし、ここでの経験は島を出ても何かの力になると思いますし、いずれは更に成長して島に帰ってきたり、離れていても島の魅力を発信したりするなど、何かしらの恩返しをしてくれるはずだと信じています。
今後どのように発展させていきたいですか?
島外での公演にチャレンジして、いろんな人に公演を観てほしい
ミュージカルのストーリーは、徳之島に遠島の刑となった西郷隆盛と、彼を師と慕う徳之島の青年・琉仲祐との交流を軸に進みます。来年は大河ドラマで西郷(せご)どんが取り上げられるので、このミュージカルも注目されないかなぁと願っています。それがきっかけで、鹿児島市内や福岡とかでの公演オファーがきたら嬉しいですね。どこのステージに出しても恥ずかしくない自慢の子どもたち。いろんな方にこの子たちの舞台をお披露目したいですね。ただ、今は演じられるストーリーが1つだけ。他のストーリーにも、徐々に挑戦していきたいです。
まずはとにかく、事業を軌道に乗せることで精いっぱいかもしれませんが、将来的には結シアター手舞出身の子どもたちの中から、地域のリーダーが出てきてくれたら嬉しいです。「地域で活躍しているのはココ出身の子たちなんだ」と胸を張って言えるようになれたら、素敵ですよね。
方言で地域を結ぶ、徳之島のみらい
オープニングに一人で登場して会場全体を劇に引き込むケンムン(島の妖精)、ダイナミックかつ繊細なダンスのアンサンブル、抑揚を効かせ感情を込めて舞台で演じる役者たち。プロの劇団ではないかと思うほどの演技にただただ驚かされ、時折発せられる島口のセリフに和む客席。最後の舞台挨拶では、“おぼらだれん”(「ありがとう」という意味)と地域への感謝や郷土を愛する感情のこもった言葉に、客席のあちらこちらで、涙を流す姿も。
島口ミュージカルをきっかけに、郷土を愛する子どもたちが、徳之島の歴史と文化をユイの心で結び、新しいみらいを築いていく。
団体プロフィール
結シアター手舞(手舞:てぃまい)
鹿児島県の徳之島・天城町の学校に通う中高校生を中心に、青年団の指導のもとに始動。島の方言を取り入れた島口ミュージカル「結-MUSUBI-」は2015年の初演以降、2017年3月の公演で3回目。毎年1,000人以上の観客を魅了してきた。
「一生懸命はかっこいい!」をモットーに、世代や年齢を超えた繋がり、地域の人々との関わりを大事に活動している。
伝統文化や言葉の継承を若い人たちが演劇を通して行っている姿に感動しました!もう少し写真がみたいです!このような形で活動を取り上げることで他メディアにも拡がりを見せられたら、日本に残したい文化はもっと残っていくんでしょうね。
団体の卒業生ですが、もし、この団体に入っていなかったら何も夢が見つからない人生だったと思います!保護者の皆さんや地域の人々が結シアター手舞を支えてくれたり、仲間達と本当の家族のように過ごしたりして、結シアター手舞が宝物になりました。結シアター手舞に恩返ししたいと思い、舞台の事を学ぶのが私の夢です。
徳之島出身として、この活動をとても誇りに思っています。これからも徳之島の魅力を発信していってください。
私も九州の地方出身で、方言はとても大切だと感じています。そんな大切な方言を活動のテーマとして、若い世代に普及している結シアター手舞さんの気持ちに感動して投票しました。応援しています!!