子育て支援
鹿児島県の徳之島は、合計特殊出生率2.81と日本一を誇る伊仙町をはじめ、徳之島町、天城町の島内3町すべてが全国10位以内に入る“子宝の島”。
そんな子宝の島で家庭訪問型の子育て支援「ホームスタート」を行うNPO法人「親子ネットワークがじゅまるの家」。ホームビジターというボランティアさんの研修にお邪魔し、代表理事・野中涼子さんに徳之島の子育て環境や活動にかける思いを伺いました。
「家庭訪問型子育て支援を始めたきっかけは?
親子のつどいの広場に来られないお母さんたちをサポートしたい
私たちは、平成17年の子育てサークルをきっかけに、子育て支援拠点として乳幼児が遊べる場「われんきゃ広場」を開設しました。徳之島には行政や民間企業の支所が多いため転勤で3~5年在住する人が多く、地理的に実家が遠くて子育ての支援を受けられない人が多いことから、育児中のお母さんが子育ての相談ができる場、お母さん同士の仲間づくりの場として運営してきました。
数年間、広場を運営してきて、お母さんの中には来所が難しい人や、利用をためらう人もいることが分かりました。そこで、ボランティアが各家庭に出かけていき、子育てをサポートできる家庭訪問型子育て支援「ホームスタート」を導入することに。徳之島は子どもを見ると、全く知らない人でも、つい手助けしてしまうほど、地域力が高い島。その絆が活かせる「ホームスタート」は、徳之島にとても適していると感じました。
当初は6歳未満の子どもがいる家庭しか利用できませんでしたが、今年から妊娠中のママも利用できる制度ができたため、今後はより良いサポートができるのではないかと思います。
家庭訪問型子育て支援「ホームスタート」とは具体的にどのような活動ですか?
研修を受けたボランティアが、家庭を訪問して育児や家事を一緒に
訪問するのはホームビジターという、子育て経験者や医療の資格を持つボランティアさん。8日間の講座や、さらに2日間の講習を受けた方が、ホームビジターとして登録する制度で、これまで徳之島では13名が登録し、現在は11名の方がホームビジターとして活動しています。
「ホームスタート」の利用は無料で、訪問先でお母さんと一緒に育児や家事をしたり、ゆっくりとお母さんとお話をしたり。子どもを連れて一緒に外出することもあります。
ホームビジターにもっとも必要なのは傾聴力。悩みや不安を聞いてくれる人がいるだけで、気持ちが楽になったり、口に出すことで気持ちの整理ができたり。そうやってお母さん自身が本来持っている力を引き出してエンパワーメントすることができます。簡単に言うと、近くにいるお姉さんが悩みを不安を聞いてくれて、お母さん自身が行動を起こせるように“ちょっと背中を押してあげる”というイメージですね。
徳之島の子育て環境はどうですか
少しおせっかいなくらい、地域の人が温かく支えてくれる
子育て環境は、昔と比べると、出産一時金の増加や育児休暇の取りやすさ、育児グッズの進化など、昔と比較して出産・育児の環境は向上して、今のお母さんたちが羨ましいなと感じる一方、生活困窮世帯の増加などで厳しい家庭で育つ子どもが増えていると感じます。そういう家庭で育つ子どもたちに、元気に育ってほしいと思い、このような活動をしています。
徳之島は、レジで会計するとき、後ろに並んでいる人が当然のように赤ちゃんを抱っこしてくれるなど、とても子育て世代に温かい地域。時々、おせっかいすぎる時もあるけど、この温かさを上手く子育て環境の改善につなげられたらと思っています。
特に徳之島の女性はパワフル。女性が元気になればもっと徳之島に活気が出ると活動されているサロンの経営者や、この制度の利用者で活動に共感してくださった方など、ホームビジターとして登録して活躍してくれています。
訪問型支援の手ごたえはいかがですか
行政や医療機関との連携で、支援が必要な人に、必要な支援を
徳之島は出生率日本一といっても、年間に生まれる子どもは200人くらい。経産婦も多いため、実際に初産婦などで支援が必要な人は少数です。しかし、支援が必要な原因は複雑で、行政機関の担当者や医療機関だけでは必要な支援が届けられない、あるいは手を出せない問題が増えてきました。そこに私たちNPOが加わり、三者が連携することで、支援が必要な人にしっかりとしたサポートを届けることができはじめたことが、大きな手ごたえといえます。これは徳之島では産科の医療機関が少ないため、連携しやすいという背景もあります。
一方で、課題としては、行政の単位では徳之島は3つの町があり、予算を工面してもらう場合に3町で足並みを揃えてもらうことが難しい点があげられます。当団体の支援の対象は徳之島全体であるため、A町にはサービスを提供できて、B町には提供できないということにならないよう、広域的な支援としてとらえていただき、3町ともに取り組んでもらえないかと思います。その意味では行政との調整も3倍なので、事務的な時間も嵩んでしまいますが、徳之島3町で広域的な子育て支援ができるよう、行政間での連携を促していく必要があります。
がじゅまるの家」としての今後の活動目標を教えてください
地域のニーズをくみ取りながら常に前進していきたい
がじゅまるの家として活動してきて10年近くが経過しましたが、「がじゅまるの家があって良かった」と言ってくださる人がいたり、行政からも少しずつ私たちの活動が認められ行政からの仕事や視察の対応なども増えてきたりと、着実に前に進んできました。
ただ、今の状況に満足することなく、NPOとして常に何がこの地域に必要なのか、地域や時代のニーズを考えながら、これからも前に進んでいきたいですね。例えば、父子家庭の増加や子どもの貧困、負の連鎖など、子どもに関わる新たな課題にも対応していく必要があると考えています。
徳之島は時々ウンザリしてしまうくらい地域の絆が強い。でも、この絆は、これからの少子高齢化を考えると尊い絆。しかし、徳之島でも少子高齢化や価値感の多様化などにより、この絆が徐々に失われつつあります。この絆を大切にするためにも、子どもを中心として、地域の絆を深めていけたらと思います。
地域の絆で育む、“子宝の島”のみらい
“子宝の島”に子育て支援が必要?そう感じる方がいるかもしれない。
では、なぜ“子宝の島”になれたのか。行政による子育て支援制度が特に豊富というわけでもない。これは、地域の絆で子どもたちを育む環境が、子育てへのストレスを和らげているからではないだろうか。
しかし、子宝の島でもこの30年で人口は2割以上減少。少子高齢化の波は子宝の島でも押し寄せてきている。「このままでは温かい地域の絆も、高い出生率も失ってしまう」そう思い、立ち上がった「がじゅまるの家」。行政や医療機関だけでは解決できない問題を、がじゅまるの家は少しずつ地域の絆で解決し、“子宝の島”のみらいを築いていく。
団体プロフィール
NPO法人 親子ネットワーク がじゅまるの家
全国でもトップクラスの出生率を誇る徳之島でも、徐々に少子高齢化が進行。自然が豊かで地域で子どもを見守り育てていく徳之島ならではの地域の絆を守りたいと、子育てサークルをきっかけとした母親たちが立ち上げ、2010年にNPO法人として設立。
女性が安心して妊娠・出産・子育てのできるまちづくりを目標に、子育て中の親子が集う「われんきゃ広場」の運営や乳幼児の一時預かりなどに加え、産前産後のママを訪問型で支援する「ホームスタート」など、積極的な子育て支援を展開している。
子育てしている時期は普段何でもないことが不安の種となり、悩んだり、迷ったり…。私も近くにそういうサポートが欲しかったです!これからのお母さん達を支援してあげてください。
長寿そして子宝の島として名高い徳之島での活動。県外各地からも関心を寄せる取り組みなどが展開されていますね。子育てしやすい環境は、働きざかりの親世代には「ありがたい!」
子宝の島で、よりよい暮らしが出来るために、色々な取組みをありがとうございます。Uターンの人たちや、Iターンの人たちが安心して移住出来るように、これからも頑張って下さい!!
頼りになる、おじいさんやおばあさんが近くにいない家庭にとって、とてもありがたいものだと思います。