子どもの貧困対策
福岡県飯塚市庄内(旧嘉穂郡庄内町)にある「飯塚市庄内生活体験学校」では、子どもたちを対象に、農作業や動物の飼育も含めた生活体験を集団生活の中で体験する合宿プログラムを1983年から実施している。
生活体験学校の開校時から長年携わってこられ、現在は館長を務める正平辰男さん(指定管理者であるNPO法人体験教育研究会ドングリの理事長)にお話を伺いました。
「飯塚市庄内生活体験学校」とはどんな場所でしょうか?
集団での共同作業を子どもたちが合宿形式で体験
生活体験学校の原型となったのは、1980年に旧庄内町で開設された教育キャンプ場。1983年にスタートした「通学キャンプ」では、地元の庄内小・中学校の児童や生徒を対象とし、1週間程度、日中は普段通りに通学、下校後から翌朝の登校までを集団でキャンプ生活を体験するというものでした。
その後、庄内町として通学合宿専用施設を建設することになり、1989年に現在の本館が完成し、「庄内生活体験学校」として運営されるようになりました。
私自身、「通学キャンプ」の構想段階から、当時の福岡県教育委員会筑豊教育事務所の社会教育課職員として、関わっていましたが、毎日のように仕事が終わってから、この生活体験学校へ来ていました。
手作りで建てた厩舎に馬を連れてきて、毎日のように世話をするなど、自宅にいないことばかりでしたが、ずっと続けられたのは、子どもと関わるここでの活動が好きだったのでしょうね。
生活体験学校が果たす役割は何ですか?
家庭や地域ではできなくなったこと、学校ではできないことの大切さ
かつて多くの家が農作業をしていた頃は、親と子が一緒に作業する機会がたくさんありました。その中で、あいさつの仕方や、誰かと一緒に作業する時の声のかけ方、道具の使い方など、親が子どもたちに様々な知恵を授けることができていました。しかし、現代では親が勤めに出ている家庭が大半。そのような機会はほとんどなくなってしまいました。学校にそのような教育を求める声もありますが、公教育ではすべての子どもたちに同じ教育を提供することが原則。そのため、学校でできることは限定的にならざるを得ません。
一方、子どもに初めてのことを教えるには、時間も手間もかけて、丁寧に教える必要があります。仕事で忙しい現役世代の親に、その役割を求めるのも現実的に難しいでしょう。そこで期待できるのが、地域のおじいちゃんやおばあちゃん。人生経験豊富なお年寄りは、子どもたちにじっくりと、優しく丁寧に、時には厳しく、教えてくれます。ある程度、役割を細かく分けて、負担となりすぎないように気をつけながら、協力をお願いしています。
「子ども食堂」とはどのようなプログラムですか?
子どもたち自身の手で収穫・調理・後片付けを体験
当校には菜園があり、子どもたちと一緒に様々な種類の野菜を栽培しています。「子ども食堂」での最初の作業は、この菜園での野菜の収穫。収穫に適したものを見分ける方法は職員が教えますが、実際に見たり触ったりして判断し、収穫するのは子どもたちです。必要な量の野菜を収穫したら、調理師として経験を持つプロの方の指導を受けながら調理。できあがった料理を皆と一緒に食べたら、食器を洗い、元の場所へ戻すところまで自分で行います。今回は、みんなでちゃんぽんを作りましたが、単に食事をするだけでなく、その前後に必要な作業も含めて体験することが非常に大切だと考えています。
子ども食堂をやってみて課題はありましたか?
対象を絞って募集することの難しさ
今回の「子ども食堂」では、普段は有料である生活体験プログラムを無料で実施しました。この体験を必要としていても、なかなか来ることができない子どもたちに体験してほしくて企画しましたが、当初計画していた生活困窮世帯の子どもたちに絞って実施することができませんでした。
ここは最寄りのバス停もなく、子どもたちには送迎が不可欠。地域の主任児童委員の方が子どもたちに声をかけて連れて来てくださる事もありますが、今後は、募集対象や告知、送迎をどうするべきか、検討が必要です。
しかし、社会全体から考えて、このようなプログラムが届きにくい子どもたちへ、しっかりと届けていく必要があります。これからも知恵を絞り続け、工夫しながら続けて行きたいと考えています。
これからの子どもたちに期待したいことは?
本から得た知識だけでなく、リアルな体験を
大人になって仕事をするようになれば、最後まで仕事を仕上げる力が必要です。しかし、最近では、ちょっとやってみてできないと、すぐに投げ出す子どもが増えたように感じます。また、大人の細かい指示がないと動けない子どもも多くなりました。このままにしておくと、いずれ社会的に大きな損失が出てくると思います。
本で得た知識だけでなく、現場での体験を子どもの頃からしておくことが、やはり大事ではないでしょうか。例えば、ごはんを食べるために薪を集めてリアカーで運び、自分で火をおこしてお米を炊く。文字で読むことと実際に体験することでは全く違います。子どもたちは実体験の中で、様々なことを学びます。食べ物への感謝の度合いも違ってくるでしょう。普段の生活ではできない体験を、これからも提供していきたいと思っています。
長年の活動で、みらいへ繋ぐ生活体験
1983年に旧庄内町で始まり、その後、全国的に広まった「通学合宿」。当初、通学合宿に通っていた子ども世代が親になった今、ここ庄内生活体験学校では新しい試みが始まっていた。
生活体験学校の構想段階から携わってあった正平さんは、子どもたちに「我慢が足りない」と厳しい目を向けながらも、子どもの可能性を信じ、そのみらいに期待していることが言葉の端々ににじむ。集団の中で皆と一緒に作業し、何かを作り上げる苦労や喜びを知った子どもたちが、正平さんのように社会のために汗をかける人材へと育っていくことを期待したい。
団体プロフィール
NPO法人 体験教育研究会ドングリ
庄内生活体験学校での活動の企画・運営に長年携わってこられた正平さんを中心に、2008年に設立。生活体験学校の指定管理者として、通学合宿や生活体験合宿、農業体験など、さまざまなプログラムを通じて、子どもたちの生活体験と成長との関係性を研究し、子どもたちの健全育成を図っている。
集団生活ができない子が増えているので貴重な体験活動だと思います。これからもお励みくださいませ。
子どもたちに自信をつけてあげてください。
土と触れ合うことは子どもの成長に非常に大切だと思って投票しました!応援しています。
大量消費の社会になっていますが、いろんなことを体験することで、もののありがたさが学んでくれたらと思います。