食育を通じた次世代育成
宮崎市中心部から車で20分ほどの距離にある清武町正手地区。この地域で子どもたちへの食育や農業体験などに取り組む、おじいちゃんやおばあちゃん世代が活躍する「息軒塾正手」。
そばの種まきから収穫までを子どもたちが行うプログラム「そば道場」にお邪魔し、代表の上山正英さんに、活動に込めた想いなどについてお話しを伺った。
「息軒塾正手」はどのようなきっかけで始まったのですか?
転入世帯と地域住民の交流の場
2002年から学校週5日制が導入されることになり、その前年に「学校教育が変わる大きな節目に、子どもたちのために土日を活かして何かできないだろうか?」と地元の有志たちが集まったのがきっかけです。
みんなで協議を重ねた結果、正手地区は宮崎市のベッドタウンとしてファミリー層が引っ越してくることが多かったことから、地域住民との世代間交流を図りつつ、子どもたちに地域の伝統文化や自然環境に関心をもってもらうことを目的に「息軒塾正手」を設立。郷土の偉人・安井息軒にちなんだ名称をつけました。設立当初は小学校の元校長先生が代表を務められ、私は発起人の一人として参加していました。
どのような活動をされているのですか?
公民館を中心に農作物の栽培や、工作教室などを実施
学校週5日制と時を同じく2002年に正手公民館が完成したこともあり、この公民館をメイン会場として、そばやサツマイモの栽培のほか、夏休みの工作教室を行っています。農作物の栽培では、自分たちで収穫した農作物を食べることで、テレビやネットで目にするだけでは学べないことが、このような実体験を通じて豊かな感性を育むと考えています。
工作教室では、昔ながらの竹とんぼや竹ブンブン、竹笛を子どもたちに指導しながら一緒に作って遊びました。一緒に作ったおもちゃに子どもたちが夢中になって遊んでいるのを見ると私たちも楽しくなりますね。このほかにも「ほたるの里づくり」として、この清武町の豊かな自然環境を子どもたちと一緒に守っていく活動も行っています。
活動の手応えを感じるのはどんな時ですか?
拠り所にしてくれている子どもたちが存在意義
近隣の3つの小学校に活動のチラシを配布していますが、最近はそれ以外の校区からの参加者もいらっしゃって、徐々に認知度が上がって評価されてきたと感じています。
正手地区は転校生も多いこともあって、新しい学校に馴染めず、中には「この子、何となく他の子たちよりも浮いているな~」と感じる子を見かけることもあります。でも、その子が楽しそうに通ってくれる姿を見ると、ここを拠り所としてくれていることがよく分かるんです。そんな様子を見ていると、たとえ一人でもこんな風に頼りにしてくれるのであれば、この塾には、そういう存在意義もあるんだなと思います。
今後も活動を継続していく上での課題は?
地域全体で、手を取り合いながら活動したい
活動を始めて2、3年くらいは、周囲の方々の反応は思っていた以上に冷静でした。しかし10年以上続けていくうちにメディアからも注目されるようになり、学校関係者からの評価も高くなっていって、今では「継続は力なり」の言葉の重みをしみじみと感じています。メンバーは何人か入れ替わりはありましたが、創立時のメンバーとほとんど変わりない10名ほどで運営しています。定年後の時間を活用して関わってある方がほとんどで、やはり高齢化が懸念されます。若いメンバーを早く見つけて、活動に新しい風を送り込みたいというのが課題ですね。
もう一つの課題が、資金集め。これは毎年頭の痛い問題です。それぞれのイベントに対する助成はありますが、塾全体としての補助がないのでなかなか厳しいというのが現状です。子どもたちの受け皿づくりは地域の課題なので、地元の自治体や企業、そして地域住民の方々と手を取り合いながらこれからも続けていきたいと思っています。
活動を通じてどんな大人へと育ってほしいですか?
人への感謝、自然への感謝を通じて、他者を思いやれる人に
「そばを育て、収穫し、食べる」という一連の体験をすることで、食べ物を作ってくださる方々への感謝、そして自然への感謝の気持ちを味わってもらいたいというのが一番の願いです。生産者の苦労の一端を味わうことを通して、人の気持ちが分かって、相手を思いやれる大人になってもらえたらと思います。
夏休みの工作教室では、子どもたちにナイフの握り方を教えるところから始まり、一緒に作った竹とんぼは公民館近くにある広い堤防で飛ばします。すると、みんな楽しそうに竹とんぼを追いかけながら自然の中を走り回るんです。こうやって、野原を駆け回りながらの遊びをもっと大事にしてもらって、この恵まれた自然環境も味わってもらいたいですね。
そば粉を捏ねる手の中ではぐくむ、正手地区のみらい
「そば道場」が開催されている正手公民館に近づくにつれ、子どもたちのにぎやかな声が響き、エプロン姿の婦人たちが作る「年越しそば」のだしの美味しそうな香りが漂ってくる。公民館に入ると幼児から小学生まで約30名の子どもたちが、両手で感じるそば打ちの感触を楽しみながら目を輝かせ、高齢者たちは「もっと力を入れんね」「こうすればいっちゃが」と充実感に満ちた表情で指導していた。
半世紀以上も離れた年齢の差も感じないほど、同じようなキラキラした目をしながら、そば粉を捏ねる両手の中に、それぞれのみらいを見つめていた。
団体プロフィール
息軒塾正手~語ろうかい、やってみろ会~
2002年設立。宮崎市清武町の正手地区のリタイヤ世代が中心となり、子どもたちの世代間交流を図りつつ、自然環境に対する関心や好奇心を育むと共に、正手地区の伝統文化を次世代に継承することを目的に活動。サツマイモやそばの栽培・収穫のほか、夏休みの工作教室やほたるの里づくりの活動を行っている。
地域のつながりが薄れがちなベッドタウンで、子どもたちを中心に新たなつながりを作ることは、素晴らしいと思います。特に食育は国際的に関心をもたれる分野ですし、なおさら良いですね。
そば打ちって、なかなかできない体験ですね!とっても楽しそうな子供達の笑顔が印象的でした。自分たちで育てたものを自分たちで収穫して食べるという体験を通して、「いただきます」と「ごちそうさまでした」の本当の意味が分かる人になるだろうと思いました(^O^)
宮崎県出身の私としても宮崎の文化や歴史を繋いでいってほしいと強く願います!
里帰りしたい気持ちになりました!応援しています!!
子どもたちの地域との交流はとても大事なことだと思います。大きくなった時にふと思い出す記憶が地域への愛着にもつながりますし、世代間交流も出来る活動をぜひ続けてください。応援しています。